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中野剛充著『テイラーのコミュニタリアニズム 自己・共同体・近代』

勁草書房、2007年1月刊行

 

書評


■朝日新聞2007年03月18日

共有する善を多元的に追求

 グローバル化の進展にともなって、近年、国家と市場のあいだに共同性を再構築する必要を唱える論調が目立つ。そのなかで、主として英米圏でコミュニタリアニズム(共同体主義)と呼ばれる政治思想が、日本の論壇でも注目を集めるようになってきた。
 本書は、コミュニタリアニズムの主要な論客のひとりであるカナダの政治哲学者チャールズ・テイラーの思想を包括的に論じた本邦初の作品である。
 コミュニタリアンは一般に、個人の権利に対して、コミュニティーが共有する善や価値観を重視する。その上で、著者がテイラーに固有の洞察とするのは、その共通善が単一のものではなく、本質的に多元的なものと捉(とら)えるところである。伝統的にリベラリストは、この諸善の多元性ゆえに、消極的自由(他人に妨げられない自由)の擁護に立てこもってきたが、テイラーは、多元的な諸善間の和解可能性を創造的に追求するところにこそ人間の自由があると主張するのだという。
 テイラーは、カナダ・ケベック州の独立問題に関しても「深い多様性」を承認する方向での連邦制維持を主張している。生きた思想の緊張感が伝わる好著である。

 山下範久(北海道大学助教授・歴史社会学)